(仮称)阿武風力発電事業についての要望と質問ー阿武町長花田憲彦様

(仮称)阿武風力発電事業についての要望と質問


日頃の町民のためのお働きに感謝いたします。

 さて、私たちはこれまで日立サステナブルエナジー株式会社による(仮称)阿武風力発電事業の問題点について町が独自に調査することと、万が一健康被害や土砂災害が起きた場合の責任の所在を明らかにするように求めてきましたが、明確な回答はいただけませんでした。ただ、環境アセスメントのそれぞれの段階で私たちが要望したことについて事業者に納得のいく説明を求めていくと回答されましたので、今回改めて下記の要望と質問を提出いたします。
 6月25日までに文書によるご回答を何卒よろしくお願いいたします。なお、この質問に対するご回答につきましては、その有無も含めて公開させていただきます。

  

                 記

 阿武町は(仮称)阿武風力発電事業に協力しないでください。

 阿武町は「選ばれる町をつくる」を基本理念とし、町づくりの方向性を「持続可能な循環型社会」の構築とする第7次総合計画を策定しています。施策として未利用森林資源を活用してバイオマスエネルギーや薪などの再生可能エネルギーの普及推進が掲げられています。(仮称)阿武風力発電事業は民間の事業者によるものとはいえ、町づくりの指針ともいうべき総合計画にも係る問題であり、建設されれば住民の暮らしや健康に大きな影響をあたえます。総合計画の冒頭には「豊かな、美しい自然を誇りに思い、残したい。住み続けたい。いつかは帰ってきたい。」という私たち町民の共通する思いも記されています。
 私たちが懸念している以下の環境悪化が顕在化し、賠償が必要になるような事態になった場合、阿武町には事業予定地内に町有林を有する地権者として、また国有林を除く民有林の林地開発許可の許認可を出す立場で大きな責任が生じることはいうまでもありません。

 

A)土砂災害発生の危険性と濁水処理について

 近年、大量の降雨による土砂災害が各地で多発しており、記憶に新しいところでは2013年7月28日の集中豪雨(須佐観測所では1時間雨量185ミリを観測)、また2018年の西日本豪雨災害も思い起こされます。この時、斜面崩壊や土石流が発生していたのは花崗岩地域、流紋岩地域でした。事業予定地の土質も土砂崩れを起こしやすい花崗岩流紋岩など火山岩地であり、事業予定区域が真砂土で崩れやすいことは地元住民なら知っています。

 今回の事業予定地は県道114号、葛篭集落方面、県道303号線に向け急斜面になってい

ます。葛篭集落には傾斜度が30度を越える急傾斜地の崩壊特別警戒区域、土石流特別警戒区域、土石流危険渓流、急傾斜地崩壊危険箇所が町のハザードマップに指定されています。想定を越える量の雨水がこの急斜面に降れば、雨水により浸食された土砂を含んだ濁水が事業予定地から谷へ、河川へ、集落へ、さらには海へと流れ込むことが予想されます。白須山から3km下れば、阿武町が誇る豊かな漁場です。配慮書段階で、県知事は当該区域内に崩壊土砂流出危険区域が含まれることから区域内の土砂流出状況を精査し、豪雨災害をはじめとした自然災害への対策について検討し計画に反映させることと意見しています。また萩市長も郷川、白須川、大井川上流域に予定地が位置することから間接的な土砂流入による漁場や景観などへの影響を懸念しています。実際に下関市の白滝山ウィンドファーム下の粟野川ではアユ、青のりの漁獲量が減ってきたことが報告されています。

 事業者は上述の危険区域は除外し、土砂や濁水の流出を抑制するために仮設沈砂池を設置するなど工事中(約3年間)は対策を適切に行うとしていますが、工事終了後(稼働期間20年間)の土砂や濁水の流出については対策を明記していませんし、環境影響評価の選定項目からも除外しています。稜線部に幅広い作業道路が造成され、切土、盛土部分も含め裸地の部分がそのままの状態で置かれるなら、工事終了後の排水施設も必要だと思われます。裸地は浸透能力が低く地表流の発生につながり、河川流量の増大、土壌侵食、土砂流出を招きます。本事業と同様な地形からなる島根県のウィンドファーム浜田では河川への土砂流出や土石流などの土砂災害が発生しています。

 また、建設予定地の白須山は、砂防ダムが建設されている対岸の山腹崩壊地域と同じように急峻な斜面であり、砂防施設もいくつか設置されています。事業者は風車を建設するために山の尾根付近に一基当たり3000㎡の土地が必要だと説明会で回答されましたが、白須山の稜線が広範囲に掘削され裸地が広がれば土砂災害の危険性が増すことは素人目にも明らかです。白須山ふもとのたたら製鉄遺跡は埋め戻されていますが、萩ジオパークジオサイトとなるには十分な文化資産ですし、阿武町にとっても貴重な文化遺産です。ここを土石流が襲って台無しになる可能性も懸念されます。

質問1 

林地開発許可においては「土砂の流出又は崩壊、その他の災害を発生させるおそれがあること」に該当しないと認める場合は、許可しなければならないこととされています。これだけの懸念がある事業を、町は安全だと判断されるのですか。

質問2 

この風力発電事業が持続可能な循環型社会に貢献するかどうか、町づくりの方針に則

ったものかどうか、この事業について住民に十分な情報が与えられ、町や町議会、ま

た住民の間で十分な論議が尽くされているとお考えでしょうか。

質問3 

4月23日の住民説明会後の新聞取材に答えて、町長は「(CO2削減量が3万9千トン

以上にあたる効果)の数字を聞けば相当大きなもの。大きなデメリットがなければ、

基本的には協力していく立場」(4月25日山口新聞)という見解を示されましたが、

大きなデメリットとは具体的に何を指しているのでしょうか。この事業のメリット、

デメリットをどのようにお考えでしょうか、町民にとってどんなメリットがあるとお

考えでしょうか。事業のメリット、デメリットを具体的に挙げて町民に示してください。


質問4 

阿武町町有林野条例第21条によれば、町有林を民間の事業に貸し出すことはできな

いはずですが、事業予定地内に町有林を有する地権者であり、国有林を除く民有林の

林地開発許可の許認可を出す立場で大きな権限を有する町には厳正で公正な判断が求

められます。事業者への協力とは、どのようなかたちの協力を想定されているのでし

ょうか。

 

B) 健康被害について

今回計画されている風車は4200kw と国内最大規模で国内の稼働実績もありません。風車による超低周波が私たち住民の健康や暮らしに影響が出る懸念が払しょくできません。低周波音、超低周波音による影響を受けるかどうかは個人差が大きいといわれますが、 私たちの中にも風力発電施設の見学に行き気分が悪くなったメンバーがいます、これは事実です。

事業者は「住民からの苦情などが出た場合には弊社が状況を調査し、本事業によるものであった場合には補償などの対応をします」と答えていますが、過去の幾多の公害裁判において因果関係の立証が困難なことは知るところです。被害を出した側が状況調査を行い因果関係があるかどうかを判断するのでは公正さに欠けています。

環境省は「風力発電施設から発生する超低周波音・低周波音と健康影響について、現段階において明らかな関連を示す知見は確認できない」、「基準値ではなく参照値である。『参照値』を風車の低周波音に適用することはできない 」としていますが影響がないと断定しているわけではありません。

ところが、事業者は説明会で超低周波による人体への健康被害は「ない」と断定しました。これは誠実な科学的態度とはいえません。

1992年に採択された「環境と開発に関するリオ宣言」には、因果関係が科学的に明らかになっていない場合、開発行為は控えるという予防原則が定められ、国際法の一般原則の一つとなっています。予防原則に則れば、住戸からこれほど近い場所に、また5㎞以内に学校や行政、福祉施設が存在するような場所に風力発電施設を建設することは問題外です。


質問5 風力発電施設による健康被害者を地域で一人でも出してよいとお考えでしょうか。

 

  • 景観について

山口県景観条令では景観は地域の自然、歴史、文化など人々の生活、経済活動などとの調和により形成されるとして良好な景観の重要性が基本理念として示されています。第7項には「良好な景観の形成は、景観が、それを構成すべき個々の土地、建築物その他の工作物または物件の外観のみならず、それを見る者の認識によって成り立つものであることを旨として、行わなければならない」とあります。良好な景観は風車(工作物)を毎日見るわたしたち住民やここを訪れる観光客の認識によって成り立つものです。事業者は景観への影響予測を主要な眺望点からの眺めや圧迫感の有無に限定していますが、県の景観条例の基本理念に基づくなら、それでは不十分だと考えます。

阿武町全域が萩ジオパークに含まれ、海岸部が北長門海岸国定公園に指定されていることは町長はじめ多くの方々が指摘されているとおりです。また、第7次阿武町総合計画には「豊かな、美しい自然を誇りに思い、残したい」という町民の共通する思いも冒頭に記されています。私たちは山々の風景を眺めて安心感を得、季節によって表情を変える木々の彩りに日々癒されます。海岸部(奈古、宇田)と山間部(福賀)を結ぶ山稜の尾根筋への大型風車建設は景観を損なうもので、町民の故郷への思いを踏みにじる行為です。


質問6 

国が進める再生可能エネルギーの推進のために、阿武町の宝とも言うべき景観を犠牲

にしてもよいとお考えでしょうか。
 

4)自然環境、生態系への影響

 私たちが次の世代に残すべきは目に見える風景だけではありません。事業予定地内とその周辺には豊かな生態系があります。森の豊かさは、多くの小動物、鳥たちによって循環が媒介され蓄積されてきたものです。長い年月をかけてきて培われてきた豊かな生態系が、20年で事業を終える風力発電施設の建設のために失われる可能性があります。例えば、ミヤマウメモドキの群生地は事業予定地域から除外されましたが、生態系を維持するためには十分ではありません。群生地がある八幡原に上流域での山林開発によって濁水が流れ込めば湿原の環境が大きく変わり失われてゆく可能性さえあります。

 環境省レッドリスト2020に掲載されているアブサンショウウオ(絶滅危惧1類)、オヒキコウモリ(絶滅危惧II類)、山口県自然記念物で日本の南限として自生しているミヤマウメモドキだけではありません。他で見ることのできなくなった貴重な山野草の数々、モリアオガエル、モズクガニ、アサギマダラ、ソウシチョウ、ミサゴ、カンアオイギフチョウなど、ここに生息する貴重な動植物を私たちの時代で失うわけにはいきません。

 

質問7 

国連の持続可能な開発目標(SDGs)の目標の一つに「森林の持続可能な管理、砂漠化

への対処、土地劣化の阻止および逆転、ならびに生物多様性損失の阻止を図る」とあ

ります。町長はこの事業について、地球温暖化防止に貢献し、再生可能エネルギー

推進し開発することは望ましいと見解を述べてこられましたが、稼働期間20年にす

ぎない一民間企業による「地球温暖化防止のための事業」の代償として、長い年月を

かけて育まれてきた豊かな生態系を破壊し環境を悪化させてもよいとお考えでしょう

か。


以上、 何卒よろしくお願いいたします。