県に『アブサンショウウオ』の保護・保全に関する要望書を提出

本日、県に「山口県阿武町に生息する『アブサンショウウオ』の保護・保全に関する要望書」を提出しました。県の環境生活部自然保護課と環境政策課アセス班の各担当者の方に対応していただきました。6月中に文書による回答を頂くことになっています。
要望書は下記のとおりです。***********
山口県阿武町に生息する「アブサンショウウオ」の保護・保全に関する要望書】
山口県知事 村岡 嗣政様
2022  年 6月2 日
阿武風力発電所建設を考える会代表 浅野容子
阿武・萩の未来を良くする会代表 中村光
阿武風力発電所ちゃあなんか考える会代表 宮内欣二
山里フォーラム のんたの会(あったか村)白松博之
日頃の県民のためのお働きに感謝いたします。
私たちは、現在、HSE社が阿武町内で計画している(仮称)阿武風力発電事業が、阿武町や萩市の豊かな自然環境と生態系に大きな影響を及ぼすのではないかと危惧しています。今回は、事業予定地内に生息する絶滅危惧種アブサンショウウオの保護並びに生息地の保全について要望いたします。
          記
アブサンショウウオが絶滅危惧種として保護され、生息に不可欠な湿原が保全されるよう必要な施策を早急に実施してください。生息地で事業が計画されている(仮称)阿武風力発電事業に対して、知事意見においても触れておられているところですが、より一層慎重な対応をお願いいたします。
アブサンショウウオは2019年に京都大学研究チームにより発表された論文(注1)により、山口県域において生息していたカスミサンショウウオの新種として確認されました。発見した松井正

京都大学名誉教授は「2種とも山口固有と言ってもいいぐらい貴重な両生類。早急に(条例などで)保護するための対応をして欲しい」と指摘されています(朝日新聞2019年4月24日:添付資料1)。
その後、2020年3月に発表された環境省レッドリスト2020補遺資料では、近い将来における野生での絶滅の危険性が高い絶滅危惧種ⅠB類(EN)に分類されました。さらに、2022年1月には「絶滅のおそれのある野生動物の種の保存に関する法律」に関する法律施行令の一部が改正され、アブサンショウウオも特定第二種国内希少野生動植物種として追加されました(注2)。選定の要件は「分布域が限定されており、かつ、生息地等の生息、生育環境の悪化により、その存続に支障をきたす事情がある種」です。
山口県立博物館の公式サイトには中学生による論文「アブサンショウウオHynobius abuensisの地衣状斑紋」(『山口県の自然』第80号)が掲載されています。論文は「小グループに分化したHynobius属は限られた環境で生まれた適応種と考えられる。その環境が失われれば、その種が失われることにつながる高い危険性をはらんでいることが分かった。この貴重な地域の宝を、これからも大切に見守っていかなくてはならないと思った」と締めくくられています。2021年10月の山口県のプレス発表では、高校生によるアブサンショウウオの研究を、第65回日本学生科学賞山口県代表として推薦したことが書かれています。
この論文を書いた中学生たちや次に続く世代に貴重な地域の宝を残すためにも、最新の知見や希少野生動植物の保護に関する国の方針に則り、アブサンショウウオの生息に不可欠な湿原が保全されるよう必要な施策を実施していただくようお願いいたします。
前述の京都大学研究チームの論文によれば(仮称)阿武風力発電事業が計画されている地域はアブサンショウウオの生息地内に含まれています(注3)。本年1月に事業予定地内2カ所で住民が
アブサンショウウオと思われるサンショウウオを見つけています(注4)。京都大学研究チームの研究者に写真による同定を依頼したところ、「見た目はアブサンショウウオに見え、かつ阿武町で採集されているのなら、ほぼアブサンショウウオで間違いないと思う」という回答を得ています。
現在、(仮称)阿武風力発電事業は環境影響評価方法書を終え、環境影響調査が行われています。方法書には具体的な工事計画が書かれていませんでした。同事業により森林伐採、湿地開発、林道などの建設による森の乾燥化、工事により発生する濁水や土砂の流出、工事用道路による分断が予測され、事業予定地内に生息するアブサンショウウオはじめ他の希少野生動植物にも悪影響が出ることを私たちは懸念しています。また、県自然記念物のミヤマウメモドキは指定地以外にも分布しており、影響が懸念されます。
県知事におかれましては、生物多様性基本法第3条の基本原則(添付資料4)に則り、同事業による希少野生動植物への影響が回避されるよう、今後とも慎重な判断に基づき適切な指導を下されますようお願いいたします。 
(注1)
Systematics of the Widely Distributed Japanese Clouded Salamander, Hynobius
nebulosus (Amphibia: Caudata: Hynobiidae), and Its Closest Relatives
Masafumi Matsui, Hiroshi Okawa, Kanto Nishikawa, Gen Aoki, Koshiro Eto, Natsuhiko Yoshikawa, Shingo Tanabe, Yasuchika Misawa, Atsushi Tominaga. Current Herpetology 38(1):32-90,February 2019
(注2)
(注3)
同上京都大学研究チームによる論文:figure15
(注4)
アブサンショウウオ写真:撮影日2022年1月7日
【添付資料】
1)朝日新聞2019年4月24日記事「サンショウウオ、新種だった 遺伝子解析」
2)アブサンショウウオ写真:撮影日2022年1月7日
3)「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律施行令の一部を改正する 政令の概要」
令和3年度希少野生動植物種専門家科学委員会 (資料1-3)令和3年度国内希少野生動植物種新規指定候補種の概要:両生類アブサンショウウオ
4)生物多様性基本法第3条基本原則
以上

アブサンショウウオ